「ほら、見てごらん
この家具は見る方向で模様が変わって見えるんだよ」
扉に近づいて、目を上下左右に振って見ると
その家具は色の濃さや模様が違って見えた。
「木象嵌って言うんだ」
父がちょっと誇らしげに説明してくれたのを
今でも覚えています。
扉だけでなくて
天板を縁どる装飾帯をよく見ると
光の方向や強さ次第で木肌の照りが変わり、
その模様と色がゆらめく様に変わって見えました。
それから18年経ち、
まさか我が家のリビングにある
この家具をテレビドラマで見ようとは・・・・
半沢直樹
あの大和田取締役の広い部屋の中央に登場していた
特徴的な形と象嵌細工の模様・・・
目の前のサイドボードと
テレビの中の家具を交互に指さしながら、
うれしさを隠しきれない父の姿がそこにありました。
木象嵌というのは、薄い板を部分的に切り抜いて、
そこに同じ形にカットした違う色味の木材を
はめ込んで装飾にすることで作られます。
嵌めるパーツと土台となるパーツは
同じ形に切り抜かなければならないので、
職人の熟練した繊細な技術が必要とされて、
土台の切り抜きの大きさが小さいと
きれいにはめ込むことができず、
逆に大きいと今度はゆるくなって
見た目がきれいに仕上がりません。